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前橋地方裁判所 昭和62年(わ)635号 判決

本店所在地

群馬県太田市新道町一二三八番地

村田精工株式会社

右代表者代表取締役 村田栄

本籍

群馬県太田市西本町五二番地

住居

同県同市西本町五二番地一三号

会社役員

村田正太郎

大正八年六月七日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官半田秀夫出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社村田精工株式会社を罰金二五〇〇万円に、被告人村田正太郎を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人村田正太郎に対し、この裁判確定の日から三年間当該右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社村田精工株式会社(以下「被告会社」という)は、群馬県太田市新道町一二三八番地に本店を置き、カークーラー用部品等の製造・販売等を営業目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人村田正太郎(以下「被告人村田」という)は、右被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人村田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して薄外資産を蓄積するなどの不正の方法により所得の一部を秘匿した上、

第一  昭和五八年二月一日から同五九年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六九九三万二八八八円で、これに対する法人税額が二七九八万一三〇〇円であったにもかかわらず、昭和五九年三月三一日、同県館林市仲町一一番一二号館林税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一一三三万七一二九円で、これに対する法人税額が三三七万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二七九八万一三〇〇円との差額二四六〇万九九〇〇円を免れ、

第二  昭和五九年二月一日から同六〇年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八四九七万二七一一円で、これに対する法人税額が三五二九万二八〇〇円であったにもかかわらず、昭和六〇年三月三〇日、前記館林税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が八六八万三五一一円で、これに対する法人税額が二二五万九六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三五二九万二八〇〇円との差額三三〇三万三二〇〇円を免れ、

第三  昭和六〇年二月一日から同六一年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九五五九万五八四一円で、これに対する法人税額が三九九三万四七〇〇円であったにもかかわらず、昭和六一年三月三一日、前記館林税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三八三六万二九七一円で、これに対する法人税額が一五一五万二八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三九九三万四七〇〇円との差額二四七八万一九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人村田正太郎及び被告会社代表者村田栄の当公判廷における各供述

一  被告人村田正太郎の検察官に対する供述調書

一  被告人村田正太郎(一五通)及び被告会社代表者村田栄(七通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  村田トヨ子(三通)、村田正行(三通)及び村田明子(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  館林税務署長作成の証明書二通

一  大蔵事務官作成の売上調査書、屑売上調査書、期首製品棚卸高調査書、期首材料棚卸高調査書、期首仕掛品棚卸高調査書、仕入調査書、期末製品棚卸高調査書、期末材料棚卸高調査書、期末仕掛品調査書、貸金調査書、消耗工具費調査書、減価償却費調査書、外注工賃調査書、特別償却費調査書、福利厚生費調査書、広告宣伝費調査書、消耗品費調査書、事務用消耗品費調査書、雑費調査書、受取利息調査書、支払利息割引料調査書、雑損失調査書、固定資産売却益調査書、賞与引当金戻入調査書、支払手数料調査書、事業税認定損調査書、その他所得(犯則所得以外)調査書

判示冒頭の事実につき

一  前橋地方法務局太田支局登記官作成の登記簿謄本二通

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書及び脱税額計算書(いずれも自昭和五八年二月一日至同五九年一月三一日のもの)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書及び脱税額計算書(いずれも自昭和五九年二月一日至同六〇年一月三一日のもの)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書及び脱税額計算書(いずれも自昭和六〇年二月一日至同六一年一月三一日のもの)

(法令の適用)

被告人村田の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条に該当するところ、いずれの罪についても所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪に法廷の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、さらに、被告人村田の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各罪につきいずれも情状により同法一五九条の罰金刑に処すべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により所定罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金二五〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

国民には納税の義務があることは憲法三〇条が規定するところであり、殊に法人税は、個人所得税と並んで、国家の各種施策の財源としての租税収入の根幹をなすものであり、その脱税行為は、国家の財政基盤を危うくするばかりでなく、税負担の公平を損ない、善良な国民の納税意欲を阻害するなど社会に及ぼす害悪の重大さ、深刻さは、多言を要しないところである。本件犯行の態様、結果が悪質であることは、売上を除外し、架空賃金を仮装したり、他の経費科目を水増計上し、あるいは各期末において棚卸を除外するなどにより極めて巧妙になされていることや、ほ脱税額の総計が八二四二万五〇〇〇円という高額なものであり、ほ脱税額の割合が昭和五八年度が約八七・九五パセーント、昭和五九年度が約九三・六〇パーセント、昭和六〇年度が約六二・〇六パーセントというように極めて高率に達していること、相当期間にわたって反復継続していた形跡もあり、かなりの計画性も認められることなどからも窺うことができ、また、本件犯行発覚防止を図って、種々の証拠隠滅を行なっていることも軽視できず、被告人村田及び被告会社の刑責はいずれも重いというほかない。

ただしかし、被告人村田には、格別の前科はなく、本件後はその非を深く反省し、経営の第一線を退き、脱税分について全額を支払っているので、これらの諸事情を斟酌し、厳重訓戒の上、今回に限り刑の執行を猶予するものと認める。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林宣雄)

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